クライミング バリエーションルート 登山 雪山

赤岳主稜

2022/1/2~1/3の山行記録です。

印象深い山行だったので、残しておきたい。

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赤岳主稜とは

変態たち、いよいよ主稜を目指す

山頂、そして文三郎を下る

仲間に異常事態発生

その後のこと

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赤岳主稜とは

赤岳は八ヶ岳の主峰で、人気のある山なので、夏は特に登山者が多い。

その中でも赤岳主稜はバリエーションルートと言う

いわゆる少々難関ルートになります。

主に冬季に登られるのですが、夏でも登れないことはないらしい。

(ただ、岩が脆いとの記述あり)

ルートは、まず行者小屋から文三郎尾根を1時間ほど歩き、

樹林帯を抜けた辺りで、トラバースして主稜線に取り付きます。

人数や技術量でも違ってきますが、主稜自体は3~4時間ぐらいかな。

主稜を登り切ったら、あとは山頂から文三郎尾根を下るだけなんですが。

今回は、山仲間5人で行者小屋に入り、主稜へは、

2人と3人のパーティで分けることにした。

私は3人のパーティへ。

美濃戸口から行者小屋までは、5人で冬景色を楽しみながらのんびり歩く。

赤岳が美しい
行者小屋の様子

テント場にはテントが数張り。

テントを早々に張り終え、荷物を整理したら、あとはもう酒盛りしかない。

明日の主稜のために、みんな、ごはんとお酒で士気を上げる。

変態たち、いよいよ主稜を目指す

次の日、朝6時頃、先に2人パーティが出発した。

20分ほど時間をずらして、我々も出発、

登攀で被らないようにと思って時間をずらしたんだけど、

取り付きのところで、一緒になってしまった。

赤岳主稜ルート全体
赤岳主稜ルート全体
取付へのトラバース
ここは上の様子を見ながら雪崩に気をつけて歩く
取付へのトラバース
ここは上の様子を見ながら雪崩に気をつけて歩く

今回、私は普通の雪山用アックス(歩く用ピッケル)1本使用の判断をしたけど、

あの斜度であの岩壁なら、ダブルアックスで行ったほうがよかったなあと思った。

雪がついてないところは岩を掴んで登ることもできるし、そんなに難しいわけじゃないけど、

少し乗っ越すところがちょうどいいホールドがない感じだった。

1ピッチ目では、2人チームと一緒にセカンドビレイをしていたのに、

2ピッチ目以降は、2人はいつの間にかかなり先の方へ。

やっぱり2人と3人とでは登るスピードが断然違う。

赤岳の主稜は、一般ルートの文三郎尾根から登っているのが丸見えで、

そちら側から、めっちゃ写真撮られてた。

なんかちょっと普通とは違うんだ、って優越感。

しかし、それは大きな勘違いだった。

「あんなところ登ってる変態がいる」

と言われてたらしい。

赤岳主稜を登る
登る
赤岳主稜をさらに登る
さらに登る

まあ、そうだよね。普通に歩けばいいのにね。

ただ、ピークハンターではない、

ルートハンターはどのルートから山頂に立つかにとってもこだわるのだ。

なんてそんな大層なものではないけど。

それと補記しておくけど、この日、私たちの他にもあと3パーティほど変態いました。

しかし、3人で登ると辛いのが「待ち」。

1人登ってる間は、残り2人はほぼ動かずに待つことになる。その時間が長い。

待ってる間って動かないから、じっとしてるうちにどんどん手足が冷えていく。

一緒に待ってるYくんに、「手が冷たい、感覚ない」と言ったら、

「手をパンパン叩くといいらしいよ」

と言ったので、2人で一緒に手をパンパン叩いていた。

パンパンパンパン・・・・寒い中、手を一生懸命叩く人たち。

はたから見たら、ちょっとアホっぽい。

だけど実は、手よりも足先の方がヤバかった。

感覚ないというか、痛いというか、なんか腫れてるような気もするし、大丈夫だろうか。

凍傷。

でも、靴を脱ぐわけにもいかないから、確かめることもできない。

頭の中に「凍傷」と言う文字がこびりついたまま、

とりあえず目の前の雪の壁をひたすら登った。

ネットなどで得た情報を駆使しながら、ルートファインディングしていく。

赤岳主稜はルートの取り方にもよるが、大体5〜6ピッチのルートだ。

ルートを一つ間違えると、大きな事故にも繋がるので、慎重にルートを辿っていく。

情報通り、途中に残置のF IXロープを見つけて、ルートが合っていることにホッとした。

山頂、そして文三郎を下る

標高を上げるにつれ、傾斜は緩くなっていったが、どんどん風が強くなっていく。

山頂に近づく頃にはまさしく飛ばされそうな勢い。

そういえば、何年か前の冬に赤岳登ったときも強風だった。

赤岳山頂の様子、見るからに強風
山頂の様子、見るからに強風
赤岳山頂の気温ー18℃、体感はそれ以下
山頂の気温ー18℃、体感はそれ以下

最後のピッチをコンテ(ロープを繋いで歩く)で抜けると、もう山頂はすぐそこ。

吹き付ける強風に体を飛ばされないように慎重に歩き、なんとか山頂に着いた。

着いたときの時間が、なんと14時。

6時間半もかかってしまったことになる。

ま、でも主稜をやり終えた満足感が心を満たした。

でも、ほぼずっと何も食べてなかったのでお腹もすいた。

が、寒いし強風なので、風を避けるようにしてちゃっと腹ごしらえだけして、下山へ。

あとは下山だけだと思いきや、文三郎尾根は結構急。

夏場だとここは階段なんだけど、雪がついてしまっているから階段はないし、

周りは何もないので、コケたらどこまで滑落していくかわからない。

意外に、こちらも気が抜けない。

それでも、時間の遅れを取り戻すために急ぎ足で下りていく。

山頂から1時間でテント場である行者小屋に辿り着くことができた。

仲間に異常事態発生

テント場に帰ると、もうテントもキレイに片付けてくれてた。

2人は11時に山頂に着いて、13時ちょっと過ぎに戻ってきたという。

やっぱり2人だと標準時間で行けるんだと確信した。

みんな無事登攀できたことにホッとしたのも束の間、

先行していた2人チームの1人、Tさんの口から衝撃発言が飛び出す。

「指がすごく白くて感覚がない」

みんながTさんの手を凝視する。

・・・え?

Tさんの指は確かに手指全体が白くなって少し紫がかってもいた。

「凍傷かもしれない」

そう判断し、小屋番のお兄さんにどうしたらいいか聞きにいく。

「ずっと手をあっためたまま使わないようにして。下山したら、すぐ病院に行って」

というアドバイスをもらった。

このアドバイスがのちの結果を左右することになったのだが。

とにかく早く下りて病院に行かなくてはということで、早々に下山する。

Tさんは懐に手を入れたまま、手を体温でずっとあっためながら歩く。

Tさんが手を使わないで済むように、みんなもいろいろ協力する。

そして、登山口に着いたのは17時半を過ぎていた。

Tさんの手も心配だったが、実は自分の足も心配だった。

私の足もずっと冷たかったのだ。

一番に靴を脱ぎ、恐る恐る靴下を剥ぎ取った。

少し暗がりの中、自分の足を凝視する。

ちょっと白っぽい。だけど、手で触ったら感覚が少しずつ戻ってきた。

手で包んであっためてから指を動かした。

大丈夫そう。

でも、私の足も、凍傷になるまであと一歩だった気がする。

今回足をあっためるために、靴下用のカイロを入れてたんだけど、

あんまり効果を発揮していなかった上に、

カイロのせいで靴の中が圧迫されてしまったのが絶対に良くなかった。

基本的に手袋や靴は少し空気の層を作って締め付けないようにしないと、

血流が悪くなってしまう。

この血流が悪くなるのが凍傷への第一歩になる。

次回は気をつけようと思う。

その後のこと

Tさんは病院に行ったが、特に何をされることもなく帰路についた。

Tさんによると、写真を撮るときに手袋を外したのが良くなかったかもと言っていた。

昔はそれでも凍傷にならなかったのに、歳かな、と寂しそうだった。

気温や状況にもよるが、基本、冬山で手袋を外すのは厳禁。

あとから、いろいろ調べてみると、お酒の飲み過ぎもあまり良くないらしい。

これも血流に関係してくるからだそう。

帰る途中でも、Tさんの指に少しずつ水泡ができてきていた。

指が痛くてコンビニ弁当のラップが外せない。と言うので、代わりに外してあげた。

その後も日が経つにつれ、指が紫色になり、どす黒くなっていった。

写真を撮ってもらって経過を見せてくれていたのだが、どんどんひどくなる一方で。

「指を切断しなかんかもしれん」

1〜2ヶ月はそんな状態だった。

3月になって、Tさんと会う機会があり、手を見せてもらった。

爪は剥がれてしまったりしていたが、指の色はかなり戻りつつあった。

もう切らなくてもいいという判断になったらしい。

本当に良かったと思う。

そして、半年以上過ぎた今は、爪も少しずつ生えてきている。

少し、指先が痛いときもあるらしいけれど、見た目はほぼ普通の手に戻った。

今回、Tさんが指を切断しなくて済んだのと、元通りに戻ってきた手を見て、

この山行を記録しておこうかなと思った気がする。

そして、冬山に行けば、誰でも起こりうることなんだということを切に伝えたい。

  • この記事を書いた人
さとみん

みずえ

登山帽子クリエータ〜として活動中。運動音痴だったのにも関わらず、40歳過ぎから登山をはじめる。今ではハイキングだけでは物足りず、雪山、沢登り、さらにクライミングもという、なんでも来い!状態。とはいえ、走るのは苦手なので、トレランはできない。所属の山岳会では技術指導を担当。 ココナラでは、登山に関する相談も受けてます。

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